日常小咄。




「……これは……」
「……一体何があったんです……?」

「全部ヴァッツが悪い」
「お前たちが取れるだけ取ってみろと言ったんだ」
「だからって加減ってものがあるでしょ! まさかそのまま全機種制覇するとは思わないじゃない」
「一度コツを掴めば簡単だったな」
「誰が自慢しろっつったよ」
「最後の方、お願いしますこれ以上勘弁して下さいって、店員さん真剣に泣いてたのに」
「甘いな。客商売ならば、この程度は予測するべきだろう」
「ならこいつら全部、お前の部屋に押し込んでいいんだよな? ええ?」

 両手に持ちきれないほど遊技センターのぬいぐるみを抱えて言い争う三人に、リィとシェラは黙って小さなぬいぐるみを二つ貰い受けた。







「こっちじゃ言わないもんね、九十九神って」
「――あぁ、貴方の故郷の土着信仰ね。長年使われた道具には魂が宿る、というのかしら……」
「うん。だからそんなに驚かない」







「いかにも泥酔した人間は、真っ赤な顔をしてふらつきながら『自分は酔ってない、まだまだ酔ってない』と言い切るでしょ? それこそ酔っ払いの特性だと思うわけで」
「ああ」
「そうだね」
「だから私は降りかかる無実の罪を晴らすため、身を粉にしてあえて叫ぼう」

「――『今、私は酔っています』、と!!」

「……ケリー!! 酒飲ますなって言ったろ!!」
「いやぁ俺もここまでとは……」







 シェラは彼女が苦手だった。
 食事を美味しそうに平らげたり、日常の出来事を話し合ったり。周りにつられて笑っていると、錯覚するのだ。
 ――自分の手が汚れていない、普通の人間のように。
 それが嫌で距離を置こうとしても、結局は引き込まれてしまう。呆れるほど居心地のいい彼女の傍が、本当は怖くてたまらなかった。

「シェラのご飯ってほんと絶品だよねぇ。……嫁に来ない?」
「嫌ですよ」
「躊躇なし!?」

 こうやって逃げ道を残してくれる彼女に、甘えてしまう自分。
 それが一番悔しかった。







「そうかい。全部俺の一人芝居だったってことかよ」
「……」
「あんなに尽くしたのも、全部過去のことかい? 使い道がなくなりゃ見向きもしねえのかよ? 姉さんにとって俺はその程度の男だったってことか? ――なあ、俺がこれだけ頼んでも、姉さんは何も感じないのかよ。俺を捨てて、ヴァッツのとこに行っちまうのか?」
「……」
「姉さん、頼むから何か言ってくれよ!」

「…………日替わり定食でいい?」
「サンキュー! いやあ最近金欠でさ。おいヴァッツ、席取っとけよ!」







「どうでもいいもんでも、毎日見てると愛着がわくだろ? 部屋に棲みついた蝿とか蛇も、急にいなくなると寂しくなったりしねえ?」

「そんな感じで、俺は姉さんに情が移ったんだと思うぜ?」







「ダイアン、屋敷が騒がしくないか?」
「ええ。あの天使さんと綺麗な男の子たちが、作戦会議を開いてるの」
「……今度はどこの星をぶっ潰すんだ?」
「違うわよケリー。彼らの女友達が、今週末に合コンに行くことになったらしいの。相手はメートランド大学の法学部生、五対五で数としては理想的ね。彼女はただの数合わせと思ってるけど、どうも手癖の悪いのが一人、ちょっかい出そうと狙ってるらしくて」
「……」
「今は誰が一番『彼氏』に見えるかで大騒ぎよ。あなたの奥さん、今回も変装する気まんまんね」
「…………世も末だぜ……」
「じゃ、傍観する?」
「冗談じゃねえ! 女王より俺の方がいい男だと証明する絶好のチャンスじゃねえか!」







「ひどいわヴァンツァー! 卒業式の日に約束の木の下で『わたしたち一生お友達でいましょう』と誓い合ったあの約束は嘘だったのね!!」
「何だそれは」
「いや、一度言ってみたくて」








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