今日は、日曜日。

 医学部生の実習が終了して、初めての休日だった。
 『あれは悪夢だ』と誰もが断言していたその実習は、午前四時に起床して午前一時に就寝、という過酷な日々が五日間も続き。
 やっとのことで終了した生徒を、週末〆切の恐怖のレポート提出が待っていた。
 睡眠不足と体力激減の二重苦の中、目を血走らせながらも端末に向かった最終日。あのタフな猫目の友人でさえ、最後は死相が浮かんでいた。

 久しぶりに羽を伸ばす予定だった。
 睡眠も栄養もたっぷり取って、昨日までの不調が嘘のようだ。
 今日の目的は買い物と食事、ほぼ一ヶ月ぶりに会う友人たちとの待ち合わせも入っていた。
 鞄には財布と鍵とその他いくつか、念のためにロッドも服に仕込んでおく。思春期真っ盛りの女子高生にしては少なすぎる荷物のまま部屋を出ようとして、メールの送信を忘れていたことに気がついた。
 机の上にある端末を取ろうとして、そして――。









 は琥珀色の目を閉じた。
 静かにきっかり心の中で十数えて、慎重にゆっくりとまぶたを開く。
 そこには森林が広がっていた。

「……」

 端末を取り上げる寸前の、伸ばしかけた右手。
 洗いざらしのシャツとジーンズ、登山用の靴は常日頃から愛用している一品だ。友人たちからはもっと色気のある服にしろ、華やかな格好をしろ、と怒られるが、これが一番慣れているから仕方ない。
 そんなの靴は、黄色い花が生い茂る黒土を踏んでいる。

「……」

 はつい寸前まで、寮の自室にいたはずだ。
 久々に体験した超常現象に、はとっさに胸元を――胸元のネックレスを掴んだ。
 こんな芸当ができる友人は、残念ながら心当たりがある。それも何人か。これは何かの悪戯か、また事件が起きたのかもしれないし、中身だけ飛んできた可能性も捨てられない。

 ……とりあえず、五体満足でいることを感謝しよう。

 小さく頷いたは、ようやく辺りを見回せるだけの余裕ができた。
 自分の腰までもある背の高い花のずっと向こうに、誰かの背中が見えた。とりあえず他にどうしようもなく、は人影へと歩み寄ることにした。大小二つの人影を目指して、がさがさと草花を掻き分ける。
 そして姿を目認できるまで近づいたところで、ようやく人影がに気づいたらしい。
 勢いよく振り向いた彼らの顔を見定めて、――は思わず声を出した。


「……ヴィッキー?」


 鮮やかな金髪、緑柱石の目。  見間違えるはずもない友人の一人が、厳しい目でを見上げていた。





 始まりました、デルフィニア夢。
 間違いなく不定期更新になるでしょうが、心永くしてお付き合い下さいませ。

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